ここ数年、「PER(株価収益率)」や「PBR(株価純資産倍率)」と同じくらい目にすることが増えた「ROE(アールオーイー)」という文字。
ROEは「Return On Equity(エクイティ)」の略で、それぞれの単語の意味は「Return:運用益・利益」「On:〜の上に、〜に接して」「Equity:株主資本・株式」です。
3つの単語の直訳だと「株主資本の上にある利益」ですが、これだとあまりに変な日本語なので意訳すると「株主資本から生じた利益」となりますが、ROEは日本語だと「自己資本利益率」と呼ばれています。(ここでの「株主資本」と「自己資本」はほ同意で、どちらも株主に帰属するお金ですが、これについては後ほど詳しく説明します。)
「PER(株価収益率)」は企業の収益力(稼ぐ力)を見る指標、「PBR(株価純資産倍率)」は企業の純資産を見る指標でしたが、「ROE(自己資本利益率)」は株主から調達したお金を使って、企業がどれだけ利益を稼いだかを見る投資指標です。
もっと簡単に言うと、「ROEとは株主のお金を使ってどれだけ儲けが出たかが分かる指標」と言えます。
たとえば、ROEが10%なら、企業が株主のために10%のリターンをもたらしていることを意味します。
基本的に、「ROE(自己資本利益率)」が高いほど、株主のお金を使って効率的に利益を出していることになります。
日本でROEが注目されるようになったのは「伊藤レポート」がきっかけ
日本で「ROE(自己資本利益率)」が注目されるようになったのは2014年8月に経済産業省から発表された「伊藤レポート」がきっかけです。
100ページを超える「伊藤レポート」には以下のような「ROE」についての記載が何度も出てきます。
資本主義の要諦は労働分配率にも配慮しながら、資本効率を最大限に高めることである。個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、それはあくまでも「最低限」であり、8%を上回ったら、また上回っている企業は、より高い水準を目指すべきである。
個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。さらに自社に適した形で水準を高め、持続的な成長につなげていくことが重要である。
上記の調査では、グローバルな機関投資家が日本企業に期待する資本コストの平均が7%超となっている。これによれば、ROEが8%を超える水準で約9割のグローバル投資家が想定する資本コストを上回ることになる。グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を超えるという水準を意識し、さらに自社に適した形で水準を高め、持続的な成長につなげていくことが重要である。
本プロジェクトでは、グローバルな機関投資家が日本企業に期待する資本コストの平均が7%超との調査結果が示された。これによれば、ROEが8%を超える水準で約9割のグローバル投資家が想定する資本コストを上回ることになる。個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。さらに自社に適した形で水準を高め、持続的な成長につなげていくことが重要である。
このように、何度も「グローバルな投資家と対話するには、日本企業は8%を上回るROEを達成することにコミットすべき」と書いてあります。
それはつまり、海外投資家から投資してもらうには、ROEは8%以上必要だということです。
この背景には日本企業は欧米企業と比べるとROEが低い、つまり「株主のお金を有効に使えていない」ということがあります。
上のデータを見れば分かるように、日本企業のROEは米国や欧州の企業に比べると圧倒的に低かったのです。
欧米の外国人投資家は、自分が出した資金で企業がどれだけ利益を上げるか、つまりROEを重視します。
日本企業もROE(=株主のお金を効率的に使って利益を上げること)を重視することで、グローバルな投資家から評価され、海外投資家からの買いも期待できるようになるというわけです。
この「伊藤レポート」以降、日本企業もROEを重視する経営姿勢に変化してきています。
また、日本国内の投資家の投資判断の材料にも影響を与えています。
「伊藤レポート」以前なら、PER・PBR・配当利回りなどを投資判断の材料にすることが多かったですが、「伊藤レポート」以降はこれらに加え、ROEも判断材料にしています。
2014年1月に新しく登場した株価指数「JPX日経インデックス400」でも、400銘柄の選定の際にROEが考慮されています。
「伊藤レポート」の詳細は以下をご覧ください。
- 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト (伊藤レポート) 2014年8月(PDF)
- ESGと無形資産投資に関する初めての体系的な手引きと政策提言を取りまとめました~「伊藤レポート2.0」発表~(2017年10月26日)
- 伊藤レポート 2.0(2017年10月26日)(PDF)
ROE(自己資本利益率)の計算方法
先程、「ROE(自己資本利益率)とは株主から調達したお金を使って、企業がどれだけ利益を稼いだかを見る投資指標」と言いましたが、ROEは「当期純利益」を「自己資本」で割って計算し、%表示にします。
◎ROE = (当期純利益 ÷ 自己資本)× 100
PERの計算は「株価 ÷ EPS(1株あたり利益)」、PBRの計算は「株価 ÷ BPS(1株あたり純資産)」と計算式の中に「株価」が入っていましたが、ROEの場合は「株価」が入っていません。
そのため、現在の株価が割安か割高かといったことは加味されていません。
ROEの計算式にある「当期純利益」とは「PL(損益計算書)」の税引後に会社に最終的に残る利益のことです。ここから株主への配当なども出ています。
「自己資本(株主資本とも言われる)」とは「BS(貸借対照表)」の「純資産」に計上されるお金のことです。
ROEは「Return On Equity(エクイティ)」の略ですが、会社が株式を発行して資金を集めることを「エクイティ・ファイナンス」と言います。(借金して資金を集めることをデッド・ファイナンスと言います。)
会社は株主(純資産で出資してくれた人)と債権者(=負債で融資してくれた人)から調達したお金を元手に事業を展開しますが、債権者に借りたお金を利息をつけて返済した後に残るお金は株主のものであると捉えられます。(=株主に帰属したお金)
その株主のものであるお金(=自己資本)から、どれほどの利益(=当期純利益)が出ているのかを確認できるのが「ROE(自己資本利益率)」です。
株主からしてみると、自分の資金が有効に使われているのかは非常に気になるところですから、外国人投資家がROEを重視するのは当然といえば当然と言えるのではないでしょうか。
企業がROEを高める手段はいくつかある
ROEを高めるには「当期純利益」を増やすことがまず挙げられます。これが一番まっとうな手段ですし、企業価値を高めることにつながります。
たとえば、「当期純利益」が10億円で「自己資本」が100億円の会社ならROEは10%となります。(10億 ÷ 100億 × 100 = 10)
この会社の「当期純利益」が15億円に増えれば、ROEは15%に上昇します。(15億 ÷ 100億 × 100 = 15)
また、自社株買いをして「自己資本」を小さくするでもROEを高められます。
自社株買いによって、「自己資本」が100億円から80億円に減れば、ROEは12.5%に上昇します。(10億 ÷ 80億 × 100 = 12.5)
ただし、自社株買いは何度もできることではなく、持続性がないので短期的な処置となります。
また、多額の借金(=財務レバレッジ)をして大規模投資をし、売上高を伸ばして利益を上げるという方法もあります。
ただし、これも賛否両論があり、事実、財務レバレッジを調整することでROEを高めることだけが目的になっている企業も存在します。
つまり、ROEは財務レバレッジ(負債=借金)の影響を強く受けやすいということです。
そこで、最近になって注目されてきているのが「ROIC(投下資本利益率 / Return on Invested Capita)」です。
ROICとは負債と自己資本(株主資本)でどれだけ利益を上げたかを見る指標です。
ROICを使うことで、自己資本だけでなく負債(=財務レバレッジ)も含めて企業を見れるので、その企業の本当の競争力や稼ぐ力を判断することが可能となります。